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看護師転職ごっこ

転職を繰り返した看護師の私が毎日元気になれるよう、仕事、人生にふらふらしたときに気ままに書いています。

看護師の心の闇を動かしタダの人間にさせたヤマモトー

experience

他の大学病院から転院してきた五〇代初めの女性・ヤマモトさん(仮名)の病名は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)。

全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病です。彼女が私の職場に来た理由は、故郷の病院への転院待ちでした。新たな検査や治療は行わず、現状のまま次の病院に移す。それが求められた役割だったのです。

ヤマモトさんは自分から動くことは困難で、トイレや食事の時は、看護師が抱きかかえて車いすに乗せていました。性格は気むずかしく、要求は細かく、ものを置く位置には、気が済むまでこだわりました。

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それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ より引用

一度こだわりが強くなると、なかなかその場を離れられなくなります。病状から考えてそれは仕方がないのだし思う一方で、尋常でないしつこさを感じると、なんともいえない怖さを感じたものでした。正直、多くの看護師が彼女に対して苦手意識を持っていました。


ヤマモトーの個人攻撃がはじまる

看護師が手を焼く中でも私と同期の看護師Aさんは、さらにひどい目に遭っていました。車いすに乗せようと抱きかかえると、背中にゲロを吐かれます。

他の人にはしないのに、彼女の時だけ。ある晩夜勤で働いている時、ヤマモトーはべッド柵を背面跳びのように身をくねらせて乗り越え、喉背筋で廊下を這ってナースステーションのAさんに近寄り、仰向けのままで、「転んだわよ!始末書を書きなさい!」と悪態をついたのでした。

それから数日後。日勤で出てきたAさんを含め、上司は勤務者全員に指示を出しました。「ヤマモトさんのナースコールには、今日一日私が応じます。特にAさんは、ヤマモトさんの所に行かないように。ヤマモトさんの行動は、明らかに度が過ぎていますから」。

そしてその日一日、上司はヤマモトーのケアを一手に引き受けました。副看護部長も兼務。病棟に丸一日いるのは、さぞかし大変だったと思い出す。

私たちは、Aさんを守ろうとそこまでしてくれる上司の心意気に、皆感動していました。Aさんもそれは同じ気持ちだったのでしょう。夕方には表情が明るくなっていましたからね。

とはいえ、その日一日で、人間なんて変わらない。そう思ったのは確かです。ところが、実際は、変わったんですよ。これはもうびっくり。その日以降、Aさんの背中にゲロを吐かなくなったんです。

要求の細かさは相変わらずでしたが、舌打ちや小声での暴言は聞かれなくなりました。そして約三ケ月経つたところで、ヤマモトさんは故郷の病院へ。ところがそれから、大どんでん返しがあったのです。

その後、転院先の病院で何か問題が生じ、彼女は再度病気の診断をするため、別の大学病院に転院したそうです。そこでなんと、夜中歩いているところを見つかり、「ALS」ではないことがわかったと言うんですね。

多方面からの見当で、彼女についた診断は、今で言う「解離性障害」。ストレスに対処できず、非現実的になり、身体症状を発症していたのでした。この報告が届いた時、私たちは皆唖然。やっぱり人間が一番怖い、私は思いました。

 

今、ヤマモトーはどうしているのか

今改めてヤマモトさんの様子を思い返しても、あれが身体に異常のない人だったとは、信じられない思いです。今彼女はどうしているのか。生きていれば・・・・。

SNSの時代、思いがけない情報もあるかし思い、時々患者さんの名前を検索したりするのですが、いまだ出てきたことばありません。

このヤマモトさんとの関わりから私が学んだのは、人の心には闇があり、それはとてつもない力を持っている、ということでした。症状を出す力もそうだし、Aさんに対しての意地悪もそう。

弱者として温かい目を注ごうと思っていた患者さんから、牙をむかれる。それがいつ自分に向くかわからないのは、ものすごい恐怖でした。

そして、不安な人は、自分の力を確認するかのように、他人を意のままに動かそうとします。しばしば恐怖と不安を操って。ちよっと周囲と距離のあるAさんが標的になったのは、ヤマモトさんが人間関係の微妙な裂け目を見逃さなかったからでしょう。

そして、上司が身体を張ってAさんを守ったことで、その裂け目が埋めあわされ、ヤマモトさんは牙を収めたのだと思うのです。

彼女との関わりは、看護師同士の連帯がいかに大事かを教えてくれるものでした。病む人と関わる上で、自分が孤独にならないのは、とても大事なこと。


まとめ

看護師自身にも、心に闇はありますからね。それが引き出されないようにしなければなりません。

思えば以前の患者さんの関わりでも、特にのめり込んでケアをしていたのは、少し年配の孤立しがちな先輩でした。ふとした時に、自分の心の闇に向かって、彼女は看護を始めたのではないでしょうか。

それは初めから、患者さんの満足を引き出すものではなかったのかもしれません。

ヤマモトー、元気で生きていてくださいね!