看護師転職ごっこ

転職を繰り返した看護師の私が毎日元気になれるよう、仕事、人生にふらふらしたときに気ままに書いています。

診療体制トラブルを恐れてを縮小

 

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驚いたことのひとつは、医師のマスコミ不信の根深さだった。

医師「医療を崩壊させたのは、あなたたちマスコミですよ」

 マスコミ 「一部の報道に問題があったことは事実ですが、すべてではないですよね」

医師「遺族の話ばかリセンセーショナルに取り上げて。医師の主張は全然、載せないじやないですか」
 
マスコミ「確かに、安易な医師、病院批判に走った報道がありました」

医師「医療の専門知識がない人が医療の問題を書くから、こんなことになるんですよ」「でも、医療の専門家ではない記者にもわかるように話をすることで、初めて社会に訴えることもできるのでは……」

そんなやり取りをした挙句、取材を断られることも多かった。やり取りの後、何とか応じてくれた医師の一人が大阪市内のある民間総合病院で産科医長として働くヤヨイさん(52歳、仮名)だ。彼女も福島県立大野病院事件にショックを受けた一人。

「この程度で逮捕までされるのかと怒りがわいたし、明日はわが身の問題だと思うと、恐ろしくもなりました」

この病院では、事件後、「取扱注意」と押印された書類が回覧された。書類は院長名で、今後は前置胎盤や高血圧症候群など一部のハイリスク妊婦の分娩は行なわないこと、定期検診を受けていない「駆け込み」分娩は断ること、難産につながりやすい助産院からの転送はできるだけ断ることなどの方針が記載されていたという。

「普通、事務連絡はメールですが、外部に漏れたりしないよう、書面にしたんだと思います。タイミングからみても事件がきっかけだったことは間違いありません」

ヤヨイさんが勤める病院では年間約600件の分娩を扱ってきた。常動産科医は彼女を含めて二人、非常勤医もいるので、単純に割ることはできないが、医師一人当たりの分娩数は年間170件前後だという。日本産婦人科学会はリスク管理などの面から、常勤医一人当たりの分娩取り扱い件数は年間約150件までが望ましいとしており、ヤョイさんらの勤務実態はこの基準を上回っていた。

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加えて、分娩数は増加傾向にあった。近隣で分娩を取りやめる病院が増え、そのしわ寄せを受けたためだ。それでも、医長であるヤヨイさんの方針で、病院ではリスクをともなう分娩も積極的に受け入れてきた。「『おめでとう』と言える仕事だと考え、産科医を選びました。

ハイリスク分娩を受け入れたのも、もちろん、診療報酬上の加算が付いて収益になるという理由もありますが、それ以上に産科医の使命だと思ったからです」しかし、慢性的なオーバーワークは、ときにモラルハザードすれすれの事態を招くこともあった。

ある日の当直、臨月まで順調だった女性を急きょヤヨイさんが手術することになり、助手を確保するか、手術をあきらめて専門病院に転送するかの決断を迫られた。このときは、助手も、搬送先も見つからず、やむを得ず、すでに飲酒していた常勤医の一人を呼び戻し、手術に立ち合わせたという。

また、産科医はお産の予定日だけでなく、その前後も早産など不測の事態に備えるため、長期の休暇が取りづらいという。ヤヨイさんはかねてから子宮筋腫を患い、手術の必要があったが、勤務のやりくりがつかず、手術を受けることができたのは、診断から一年後のことだった。

日々、綱渡りでやりくりしていた矢先に起きたのが、福島県立大野病院事件だった。これでは、患者のために頑張れば、頑張るほどリスクを負うことになってしまいます。私が飲
酒した部下を助手にしたケースでも、マスコミは事故が起きれば『モラルハザード』、受け入れ先が見つからなければ『たらい回し』だと叩くでしょう。この事件をきっかけに、多くの現場が訴訟リスクに及び腰になってしまったのは事実です」

その後、彼女の病院では、回覧文書に従い、リスクを伴うお産の一部は断ることを決めた。

分娩件数は三分の二まで減少。断られた妊婦の多くは近隣にある公立の周産期専門医療機関へと流れたという。さきほど、福島県立大野病院事件をきっかけに産婦人科が減ったという事実は統計上は見られないと書いた。しかし、統計には表れないところで、防衛、萎縮医療が進み、産婦人科医療の実態は縮小している可能性は否定できない。

増え続けるモンスターペイシェントに、守ってくれない病院に、バッシングに走るメディア。こうした認識が正しいか否かは別にして、これが、疲れ果て、訴訟リスクに立ちすくむ医師から見える光景であることは間違いない。