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看護師転職ごっこ

転職を繰り返した看護師の私が毎日元気になれるよう、仕事、人生にふらふらしたときに気ままに書いています。

恥も涙も消してくれる女性便器

student

どう考えても手がかかった新人の私ですが、それを根気よく育ててくれた先輩にはひたすら感謝しています。

私が幸運だつたのは、基本的に寛容であろうとする先輩に恵まれたこと。これに尽きます。忙しいけれども笑いが絶えない。それが私の育った内科病棟でした。

厳しく叱られた場面もあったはずなのですが、ほとんど覚えていいません。

 

「ほとんど覚えていない」と言うのは、「叱られた記憶はあるが、内容は具体的に覚えていない」という意味です。あるいは、叱られたのがもっともすぎて、「叱られた」体験としてではなく、自分が踏んだドジとしてしか記憶してない場合もあります。


例えば、ある時患者さんが急変して、私は気管内を吸引するチューブを持ってくるように言われました。ところがあろうことか、なぜか太い浣腸用のチューブを手にして現場に戻り、「浣腸じゃない!」と何人もの先輩から怒号を飛ばされました


この体験は、私にとって「叱られた体験」としてではなく、「急変の時に慌てて浣腸用のチューブを持って行ってしまった体験」として語られるものです

だってもう、怒号が飛ぶのは当たり前。心肺蘇生の場ですからね。ただでさえみんな声が大きくなっているところに、ドジを踏めば、怒号が飛ぶわけです。

私の上を行く伝説の失敗も、病棟では語り継がれていました。

どこにでも置いてある自動体外式除細動器(AED)ですが、元々は医療者が使う手動の装置。急変に際しては、必ず現場に運ばれる必須アイテムなのは常識です。

ある時急変に際し、その場に居合わせた人が、ひとりの新人看護師に言いつけました。

「除細動器持ってきて!」。

その言葉が初耳(?)だった彼女は、それがどんなものだかもわかりません。ものすごい緊張と焦りから、血走っている先輩や医師に聞き返すこともできず、なぜか「女性便器に違いない」と思いこみ、べッド上で使う白い差し込み便器を持ってきたのでした。

「女性便器です!」。と血走った集団に声をかけた彼女に、皆はどんな反応をしたのでしよう。その時まだ就職前だった私は知るよしもありませんが。

きっと、彼女は叱り飛ばされ、でも、すぐにその話は流れ、蘇生は粛々と続いたに相違ありません。

「ジョサイドウキ」と「ジョセイべンキ」。

意外に語感が似ているのですが。あまりにも用途が違いますよねえ。彼女の失敗は伝説と化し後々までに語り継がれています。

いろいろな病院にお邪魔して、いろんな同業者と話をすると、どたばたの中で思いがけない事件が起こるのは、いずこも同じです。話すと笑いになってしまうのも同じ。

物語は、恥や涙もほどよく上書きし、つらいばかりの話ではないようにしでくれます。

これを可能にするのは、何よりもまず、まわりの人しのおしやべり。物語は、休憩や、深夜のナースステーションで磨かれていました。

看護師として働き続けるために、言葉の果たす役割は、本当に大きいのです。